楽天市場のプロデューサーを務めていた頃は、当たり前のように「4000万人の購買データ」を利用していた私ですが、今にして思えば、それはとてつもなく貴重な経験だったのでしょう。
日本最大のショッピングモールであるイオンレイクタウンでさえ、来場者数は年間約5000万人、1日あたり13~14万人にとどまります。集客力に定評のある東京ディズニーリゾートも、来場者数は年間3000万人強にすぎません。そう考えると、楽天で動いているユーザ数「4000万人」というのは規格外の数字といってもいいでしょう。
そんな桁違いの「お化けデータ」は、私に多くの真実を教えてくれました。なかでも興味深かった発見は、同じ人間でも、ネット上と現実世界とでは行動パターンが異なるということです。
ネット上の人間は、現実世界よりもはるかに自分の欲望や衝動に忠実にふるまいます。例えば、人はネットで買い物をするとき、興味がない商品にはいっさい興味を示しません。現実世界であれば、たとえ興味がなくても店員さんに「こちらもどうですか」と勧められたら、内心では「興味ないんだけどな~」と思いつつも、ちょっと手に取って見てみるくらいはするかもしれません。けれどもネット上ではそんな気遣いは不要なため、興味がない商品に対しては徹頭徹尾「無視」一択です。メルマガなども、うざいと思ったら、誰に遠慮することもなく即座に解約します。
その一方で、興味があるものには何十倍も反応を示します。現実世界では、ものすごく欲しい商品があったとしても、人前で欲望をさらけ出すのは恥ずかしいという分別がはたらきますが、ネット上では違います。興味をひかれる商品があれば迷わずクリックし、人目を気にすることなく長い時間をかけてじっくりと閲覧します。
そのため、ネット上のショッピングモールでは人気店と不人気店の格差がものすごく大きくなります。現実世界のショッピングモールなら、多少は差があるにしても、どの店もそれなりに賑わっているように見えるでしょう。それは、いくら人気店でも物理的に何百人ものお客を収容することはできないので、入れなかった人があきらめて別の店に流れたりするからです。一方、ネット上はそうした物理的な制約がないため、1日に10万人がアクセスする店もあれば、数人しか来てくれない店も出てくるのです。
4000万人分もの「お化けデータ」を見ていると、自分や世間の常識が間違っていた、古かったと思い知らされることも多々あります。例えば、私はかつて「50~60代はパソコンが苦手だから、あまりインターネットで買い物はしない」というイメージを持っていました。ところが最新のデータを分析してみると、今の50~60代はITに疎いどころかパソコンやスマホを普通に使いこなしていて、インターネットユーザー全体の実に3割を占めることがわかったのです。