データ分析におけるユーザー属性と自社サービス
元楽天スーパーSALEのプロデューサー経験をもつ管理人が、今回はデータ分析と自社媒体の戦略についてお話します。
まず、自社に来ているユーザの属性を調査し、もっともコアな年代・人物像に向けた戦略を展開していくことは、データ活用の基本中の基本です。楽天市場なら30~60代の主婦層、ZOZOTOWNなら20~30代の女性がコアターゲット、amazonも20代〜40代がメインの層なので、その人たちに一番買ってもらえるような場づくりをしています。
リアル店舗についても同じことが言えます。街の喫茶店で50~70代の男性客が多いなら、その層を大切にした店づくりを心がけ、内装やキャンペーンなども50~70代の男性向けにするのが売上アップへの一番の近道です。それなのに、若者がインスタ映えするカフェに殺到しているニュースを見たからと言って、喫茶店を10~20代向けのカフェに改装したりすれば、もともとのお客は逃げていってしまいます。
年配の男性だけではなく若者も呼び込みたいという気持ちはわかりますが、いきなり大きく舵を切るのはリスクが高すぎます。この例でいえば、まずはコア層である50~70代男性が主役になれるマーケットを維持しつつ、バランスを見ながら少しずつ若者向けの施策も試してみるのがいいでしょう。
楽天市場の失敗ケース
簡単なことのようですが、この基本をおろそかにして失敗する企業は少なくありません。実をいえば、膨大な「お化けデータ」を誇る楽天でさえ似たような失敗をしたことがあります。
楽天市場のキャンペーンは、基本的にはコアターゲットである30~60代の主婦に向けた内容になっています。ところが、あるときインスタブームに乗っかろうと「インスタ映え」を全面に打ち出した企画を組んだところ、結果は大撃沈――。前年同時期の企画にくらべて売上が4割もダウンしてしまったのです。
敗因は、データよりも人の感覚に頼って企画を立てたことでしょう。データを見れば、楽天市場を支えているのはあくまでも30~60代の主婦であり、その層はインスタへの興味が薄いことはわかりきっているのに、「流行っているからウケるかもしれない」という感覚優先で企画を進めてしまったのだから、失敗するのも当然といえば当然です。
時代の流れに逆行しない。「スマホ化」の流れと楽天市場
話は少々横路にそれますが、インターネットショッピングの主戦場がパソコンからスマホに移行するときも、楽天は同じようなミスを犯しました。
2012~2013年頃まで、楽天市場のユーザは主にパソコンで買い物をしていました。シェアでいうとパソコンが8割、スマホが2割くらいだったので、楽天社員の頭には「メインはパソコンであり、スマホはおまけのようなもの」という意識が強くすり込まれていました。
ところが2015年頃を境にパソコンのシェアはどんどん低下し、ついにはスマホに逆転を許す事態となりました。
このとき楽天は、パソコンのシェアを回復させるために、パソコン向けの広告やSEO対策などに莫大な投資を行いました。しかし、それらの対抗策が実を結ぶことはなく、莫大な予算を浪費するだけの結果となりました。
今思えば、パソコンからスマホへの転換は抗いようがない、世の中全体の流れでした。それは各種データを精査すれば自明のことだったはずですが、「パソコンこそわれわれの主戦場」と思い込んでいた当時の楽天社員は、単純にパソコンのシェアが下がっているというところばかり見て焦りを感じ、方向違いの投資をしてしまった。データを扱うプロでさえ惑わされるのだから、人間の思い込みというのはそれだけ強烈だということです。
余談ついでに申し上げると、パソコンではなくスマホで買い物をする人が増えたのは、スマホの機能が優れているというよりも、肌身離さず持っているものだから、思い立ったそのときにすぐ買えるという理由が大きいようです。画面の大きさなど総合的な使い勝手でいえばパソコンに分があることに変わりはないため、細かなスペックを比較検討したい家電製品や、大きな画像で質感をチェックしたいファッション用品などは、今でもパソコンでよく買われる傾向にあります。