楽天市場には「トレンドハンター」という肩書で仕事をしている社員がいます。彼らは4000万人分のビッグデータから「今年はこれがきそうだ」と仮説を立て、その仮説に沿って広告やマーケティングを展開することで、本当に流行を創り出してしまうのです。
例えば、数年前に流行した「フォトジェニック鍋」をご存じでしょうか。豚肉の薄切りをくるくる巻いてバラの花のように盛りつけたり、星や花のフォルムに型抜きした野菜を散りばめたり、具材でキャラクターを造形するなどした、おしゃれで写真映えする鍋料理のことです。実は、これを仕掛けたのも楽天のトレンドハンターでした。
楽天市場の売れ筋や各種SNSのデータを分析して「次はフォトジェニック鍋が流行る」という結論に達したトレンドハンターは、楽天本社に20社近いメディアを呼んで、「最近の女性は、鍋に対して単においしいだけではなく、インスタで自慢できるような見た目の華やかさやおもしろさを求めるようになっています。だから今年は“フォトジェニック鍋”が話題になりそうですよ!」と発信――。読売新聞をはじめとする各メディアがその予測を一斉に報じたことで、実際にフォトジェニック鍋ブームが起こりました。
ビッグデータを持つということは、それだけさまざまな手を打つことができ、また、影響力のある仕事ができるということなのです。
もちろん、それだけ貴重なデータですから社外への持ち出しは厳禁ですし、たとえ社員であっても、誰もが楽天の心臓部にアクセスできるわけではありません。私が入社後すぐに少数精鋭のクリエイティブ部門に配属され、1万人以上いる社員のなかでたった100人しか閲覧を許されない「購買データ」を自由に分析する権限を与えられたことは、本当にラッキーだったと思います。
楽天に籍を置いていたときは、ビッグデータの力もさることながら、国内最大級のECサイトという看板や、優秀な仲間たちに助けられることも多々ありました。けれども独立後は、大企業の後ろ盾もなければ、困ったときに支え合える同期もいません。裸一貫になった私に残された唯一の武器が「データ」だったのです。
私はデータが示すとおりの方法で会社を立ち上げ、データを分析しながら費用対効果の高い広告を打ち、データを駆使したサービスを提供することで、起業から1年でビジネスを軌道に乗せることに成功しました。
今の私は、リアルタイムで「お化けデータ」に触れる機会こそなくなったものの、データの集め方や見方、データを駆使して「モノを売る方法」は誰よりも熟知しているつもりです。規模は小さくとも、自社で取り、自社で分析したデータこそがもっとも役立つということも、実体験としてわかるようになりました。
このように、ビッグデータと小さな自社データ、その両方を見てきた私だからこそ断言できます。
これからの時代は、データを制する者がビジネスを制するのです。