データ分析は足元から始められる
「データのありがたみはよくわかるけど。ウチの会社ではデータなんて取ってないからな~」
そんなふうに思っている方も多いかもしれません。
しかし私が知る限り、どんな会社にもデータは必ずあります。データは存在しないのではなく、データとして認識されていないだけではないでしょうか。
例えば、小売店のレジに記録されている情報はデータ以外の何物でもないし、零細企業の棚に並んでいる紙の伝票や帳簿だって、適切に集計すれば立派なデータに早変わりします。ホームページを開設している企業なら、どんなキーワードで検索されているのか、メールでの問い合わせは何時台が多いかといったデータを取ることができるでしょう。この場合は、問い合わせフォームに年齢や性別を問う欄を追加するだけで、さらに詳細なデータを集められるようになります。
中規模~大手企業の場合は、データはあるのに社員に共有されていないという可能性が考えられます。情報漏洩を防ぐために、あえてデータへのアクセス権限を絞っていることもありますが、単にデータを活用しきれていないだけかもしれません。上層部やIT関連の部門に問い合わせてみると、意外にお宝データが眠っていたりするので、ほしいデータがあるならまずは社内で確認してみてください。
駄菓子屋のおばあちゃんとデータ分析
反対に、おばあちゃんが店番をしている駄菓子屋さんのように、レジさえ使わずに現金をやり取りしているお店なら、あるいは本当にデータがないということもあるかもしれません。しかし、それならそれで今日からデータを取ればいいだけの話です。
今日お客さんが何人来たか、そのうち何人が買い物をして、客単価は平均いくらで、1日の売上がいくらになったか――。それくらいのデータなら、パソコンなんてなくても手書きのメモや数取器(カウンター)で十分記録できるはずです。
最初は取るに足らないデータのように感じられるかもしれませんが、それが1週間分、1カ月分、1年分とたまっていけば、「先月にくらべて来客数が少ないから、お客さんを呼び込む方法を考えよう」といった分析&対策ができるようになります。たとえ少量でも、自社で取ったデータは最高の処方箋になるのです。
ですから、自社にはデータがないと嘆いている人がなすべきは、第一に、これまでデータとして見ていなかったものをデータとして認識すること。第二に、システム部などにデータの有無を問い合わせること。それでもデータが見つからないなら、第三の道として、小さくデータを取りはじめることです。
データをとるときの注意点
データを取るときの注意点としては、自社の課題解決につながるデータを取ることです。売上を上げたいなら、まずは売上を構成する三大要素(訪問数、転換率、客単価/詳しくは2章で解説)のデータを取る。それをすっ飛ばして、お店の前の人通りや日々の天気といった周辺情報ばかり集めても意味がありません。
三大要素のデータが集まったら、次は“公式”(これも第2章で解説します)に当てはめて自社の現状を分析します。すると、自社のビジネスのどこに問題があり、どんな対策が有効であるかがおのずと明らかになります。
なお、本書はここまで主に店舗を構えてお客を待つ「小売業」向けの書き方をしてきましたが、保険営業マンのように自分から客先に出向いてモノやサービスを売る仕事でも、セールスの成否を分かつのはやはり「データ」です。その証拠に、こうした職種につきものの営業マニュアルは、すべて過去の成功体験(データ)にもとづいて作成されています。
さらに言えば、同じマニュアルを使っているのに売れる人と売れない人がいるのは、売れる人ほど自分だけのオリジナルデータを使っているからです。超トップ営業マンと言われる人は、ほかでもない自分自身の実体験から「この場面でこういうふうに説得すると、相手がイエスと言ってくれる確率が上がる」「この場面で価格の話を出すとノーと言われがちである」「こういう職種・年齢の人には、数字よりも感情に訴えたほうが効果的」といったデータをどんどん集めて活用しているのです。